ろにしては、あんまり静か過ぎますようでございます。まさか、夢ではございますまいね、夢であろうはずはございませぬ。それならば、もしや、あの、狐につままれたと申すものではございますまいか。おお、それそれ、わたくしにはお連れがありました、わたくしはそのことを忘れておりました、お連れの先生は、どうなさいましたでしょう、あの先生のことだから、お怪我をなさるようなことはございますまいが、わたくしのことを御心配になっておいでになるかも知れません、大きな声でお呼び申してみましょうかしら。それともまた、ここで大きな声を出して悪いようなことはございませんか知ら」
 弁信は塵《ちり》打払いながら例によって、暫く小首を傾《かし》げていると、その鋭敏な耳に女の声が聞える。
「どうぞここをおはなし下さいまし、人違いで失礼を致しました……苦しうございます」
 それを聞くと、弁信は声のした方へ頭をクルリと振向けました。
「どうぞおはなし下さいまし、わたしは苦しうございます……」
 女は何者にか捉われの手を逃れようとして苦しみ呻《うめ》いている。半ば蛇に呑まれて、半身だけが地上にのたうち廻って苦しむような、熱苦しい、ど
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