から、わたしだけを殺して、ほかの人を助けて下さいまし、わたしはお前さんに殺されれば本望でございます」
 そこへ縋《すが》りついたのはお豊ではありません、名も知らぬ女です。声にも聞覚えのない女であります。
 女もまた、縋りついて、その人が動かない人でありましたから驚きました。
「あ、違いました」
 離れようとしたが離れられません。動かない人の手が、早くも蛇のようにからみついておりました。
「あなた様は、どなたでございます、あの人はどちらへ参りました、どうぞ、お放し下さいまし、わたくしは、あの人に殺されなければならない女でございます、どうぞ、お放し下さい」
 もがいたけれども、離れることはできません。
 あちらの原っぱの方角で弁信法師が、お喋りをはじめたのはこの時分でありました。
「大変なことになってしまいました、一時《いっとき》、わたくしも気が遠くなってしまいました。おや、提灯の火も消えていますね。それでも、御安心下さいまし、わたくしの身体は無事でございます、倒れた拍子に頭を打ったものですから、ほんの一時、気が遠くなっただけのことでございます、もう、なんともございませんから御安心下さいま
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