い夢なんぞを、なんだって、こんな時に夢なんぞが出て来たんだろう。あんな夢を見ている間に出し抜かれてしまったのだ。
 あまりのことに米友も、一時は声を揚げて泣いたけれども、いつまでも泣いている男ではない、雄々しく帯を締め直して、枕許に置いた例の手槍を手に取ってみたが、どうしたものか、急にまた気が折れて、手槍を畳の上へ叩きつけると、自分は、どっか[#「どっか」に傍点]と行燈の下へ坐り込んでしまいました。
「いやだなあ」
 米友は苦《にが》りきって、行燈の火影《ほかげ》に薄ぼんやりした室内を見廻した揚句に、ギックリと眼を留めたそれは、床の間の掛軸です。
「こいつだ、こいつだ、こいつが夢に出て来やがったんだ」
 米友がこいつだと言ったのは、勿体《もったい》なくも大聖不動尊《だいしょうふどうそん》の掛軸でありました。かなり大きな軸であるが、ずいぶん煤《すす》け方がひどいものであります。しかしながら、右手に鋭剣をとり、左手に羂索《けんさく》を執り、宝盤山の上に安坐して、叱咤暗鳴《しったあんめい》を現じて、怖三界《ふさんがい》の相を作《な》すという威相は、その煤けた古色の間から燦然《さんぜん》と現わ
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