啜《すす》らなければ飽かぬ思いが、ぞくぞくと全身にこみ[#「こみ」に傍点]上げて来ました。
竜之助が、男から奪い取ったその脇差を離さないのはこの故です。この広野原のいずれかを尋ねたならば、かならずその女の肉体がころがっているに相違ない。求めてその肉を食《くら》わなければ、渾身《こんしん》に漲《みなぎ》る悪血をどうすることもできない。
それにしても、盲法師の弁信はどうしたろう。提灯が消えてしまったからとて、無事でいるならば、あのお喋り好きが何か文句を言い出さない限りはないのに、それが一言も言わないのは、かわいそうに、これも狂人の刃にかかって敢《あえ》なき最期《さいご》を遂げたのか。原をうずめていた無数の人だかりはどうしたものだ。狂人の勢いに怖れをなして一旦は逃げ散っても、また盛り返して取押えに来なければならないはずであるのに、四辺《あたり》に人の近づく気配はない。
森閑として物淋しさが身に沁《し》みると、夢ではないかと思います。夢でなければ狐につままれたものでしょう。巣鴨の庚申塚あたりには悪い狐が出没する。この場の座興に同勢を狩り催して、二人の盲人をからかってみたものかも知れない
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