脇差の柄《つか》を握って、邪慳《じゃけん》にそれをひったくると、高く振り上げて、水を掻くように無雑作に振り下ろすと、左の肩から垂直に胸の下まで斬り下げました。日高川の上で金蔵を斬って捨てたのが、やっぱりこの手でした。
「あっ!」
狂人は二言ともなくそこへのめ[#「のめ」に傍点]ってしまいました。
四方《あたり》の原は、大風の吹き荒した後のように静かなものです。
燃えさかっていた野火も消えてしまい、それを消そうと騒ぎ廻った人も在らず、寥々《りょうりょう》たる広野の淋しさを感じた時に、ふと気がつきました。
斬ったのは金蔵ではないが、その女は、もしやお豊とは言わないか。
辱《はずかし》められたる不貞の女の憎み、憎む女の肉を食《くら》い、骨を削りたくなるのは、彼の膏肓《こうこう》に入れる病根であるかも知れない。竜之助は、金蔵を斬ったこの刃で、その女を併《あわ》せて殺したくなりました。彼の右の手には、悪血《あくち》がむず[#「むず」に傍点]痒《がゆ》いほどに湧き上って来る。よし、その女が生きていようとも、すでに殺されていようとも、あくまでこの刃をその女の豊満した肉に突き立てて、その血を
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