ほど、その通りでしょう。群集の逃げ惑う真中に、髪は大童《おおわらわ》になって、片肌を脱いだ男が一人、一尺八寸ほどの脇差を振りかざして、当るを幸いにきって廻っているところは、佐野次郎左衛門の荒れ出したような有様です。
 思うに、この男は、不義をした女の御亭主なのでしょう。あまりのことに逆上して、かっと気が狂うてこのていたらくと見えます。
 驚いて押えようとした者は、みんな斬られたようです。逃げ迷うて転んだ者も、浅かれ深かれ一太刀ずつは浴びせられているようです。これによって見ると、相応に手は利《き》いているのかも知れません。手の利いていないまでも、気狂いになるほどの逆上に刃物を持たせたのだから、無人の境を行くが如くに群集の中を荒れ狂う勢いは、手がつけられないものらしい。
 ただ九曜巴《くようともえ》の提灯だけが一つ、相変らず宙に浮いて、右へ揺れたり左へ揺れたりしているところを見れば、弁信だけはまだ斬られてはいない様子です。生きている間は、持って生れたお喋りが止みそうにも思われません。
「そうれごらんなさい、何か大変が出来ましたでしょう、いくら罪ある者にしましたところで、それを責めることが、
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