、どなたも人間でございますから、あやまちの無いという限りはございませぬ、人のあやまちは七度《ななたび》ゆるして上げてくださいまし、ゆるし難いあやまちでも、許して上げるのが功徳《くどく》でございます、悪木《あくぼく》の梢にも情けの露は宿ると申しまして、許し難いものを許して上げるほど功徳が大きいのでございます、どうか、皆様、ここで神様のお心になって下さいまし、仏様のお心になって下さいまし」
 こちらから見ていると、弁信の差し上げている提灯《ちょうちん》だけが人波に揉まれて左右に揺れます。ちょうど担《かつ》ぎ上げられた樽御輿《たるみこし》が、担がれたままで自由になっているように、真闇《まっくら》な人波のうごめく中で提灯のみが宙に浮いているようです。
 その時に、群集の焦点から、また一つの騒ぎが起りました。それと共に、大波の崩れたように人だかりが四方へ溢れ出しました。
「御亭主殿が気狂《きちが》いになった、御亭主殿が気狂いになって脇差を抜いて荒《あば》れ出した、だれかれの見さかいなく人を斬りはじめた、危ない、逃げろ!」
 原っぱに集まった幾百の人波が、真暗な中を右往左往に逃げ惑います。
 なる
前へ 次へ
全221ページ中192ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング