てはかなりの夜道です。もし、きながに歩いて行ったら、夜が明けるかも知れません。急いで行ったところでこの二人は、とても近道を取るというわけにはゆきますまい。あぶなければ途中で、駕籠でも雇うまでのことです。
 巣鴨の庚申塚《こうしんづか》あたりへ来たと覚しい頃、急に人声が噪《さわ》がしくなりました。庚申塚へ廻るのは、少し廻り道すぎると思われるけれども、化物屋敷の連中は、江戸の市中へ出るのに好んであちらの方を廻りたがります。二人もまた期せずして、そちらへ廻ったけれども、そのあたりは、いつも寥々《りょうりょう》たる広野の心持のするところです。しかるに今宵は、その辺で人声が噪がしい。
 こういう時に、弁信法師は何事を措《お》いてもヒタと歩みをとどめて、仔細らしく小首を傾《かし》げて、その物音の因《よ》って起るところを、じっと聞き定めようとするのがその例です。今もまた、その例に洩るることがありません。
「大層、騒がしいようでございますね」
と言ってたちどまりました。その声は往来で起るのではありません。往来を少し引込んだところの原の中で起る、騒々しい声であります。
「喧嘩でも始まったのかな」
と竜之
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