れだけの傷を負わせられたことは、自分の不覚である。と同時に、どう考えても相手の腕の冴《さ》えを認めないわけにはゆかないことです。そこで兵馬は、かの天蓋の男が只者《ただもの》でないということを考えました。ただそれだけを考えたけれど、混乱した頭脳《あたま》のために、空想はあらぬ方へ持って行かれてしまいます。
兵馬は最初から、吉原へ飛ぶつもりでいました。今となっては、それがあまりに恥かしくてたまらぬことです。そうかといって、本所の相生町の老女の家へ帰って、誰に面《かお》を合せよう。
十五
神尾主膳は眉間《みけん》に怪我したために、病床に呻《うな》って寝ています。
なぜか、主膳は医者を呼ぶことを嫌います。これほどの怪我をして呻りながら、ついに一言医者ということを言いません。医者を迎えようという者があれば、厳しくそれを叱りつけて、寄って集《たか》ってする手療治に任せているのは、一方から言えばこの男の剛情我慢で、一方から言えば、己《おの》れの屋敷へ他人の出入りを許さぬ内部の弱味かも知れません。
うなり通しにうなって、その合間に、
「坊主を呼べ、あのお喋り坊主は癪にさわ
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