て来ませんでした。そして突立ったなりで暫く耳を傾けて、
「まだ、お若い方のようでございますな、どちらへおいでになろうとおっしゃるのでございます」
「浅草の方へ出たいと思います」
「浅草へ? それは飛んだ方角違いでございます、と申し上げたところで、私も実は浅草へ参る道は存じませんのでございますが、そちらへおいでになっては違います、今、ちょうど、お月様が上ったようでございますからね、そのお月様の上った方へと歩いておいでなさいまし、そう致しますと、ほどなく人家がございます、人家についてよくお聞きなさいまし、なんでも、お月様のお上りになった方へとおいでになれば間違いはございません」
お喋り坊主は親切にこう言って、道案内をして聞かせましたけれど、やっぱり歩いては来ないでそこに突立っています。
「有難うござる、それでは、あの月をめあてに尋ねて参りましょう。して、この辺は何というところでござろうな」
兵馬は立ち上りながら、こう言って尋ねてみると、お喋り坊主が、
「何というところでございますか、私共にもわからないのでございますが、ずっと参りますると染井から伝中《でんちゅう》の方へ出ますんでございま
前へ
次へ
全221ページ中174ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング