ようなことは、私共の及ぶところではございませんから、芸人となって、いろいろの面白い音曲を皆様にお聞かせ申し、皆様をお喜ばせ申すことができれば、それで結構でございます。ですから平家琵琶は、あまり多くの人好きが致しませんもの故に、琵琶をやめていっそ三味線に移ろうかと、このごろはそう思っているところでございました。それ故、こうして毀《こわ》れた琵琶に手入れをしてみまして、もし調子が合わないようにでもなりますれば、ここで琵琶をやめて、三味線の方に宗旨替《しゅうしが》えを致しましょうと、そのつもりでこうしてやっているんでございます……合奏ですか、結構でございますね、琵琶はこの通りいけませんから、三味線でお相手を致したいものですが、三味線がございますか。あ、そうですか、先生が尺八で、あなた様がお箏《こと》で、わたくしが三味線で……それは至極よろしうございます、お相手を致しましょう。わたくしは数をあまり多く存じませんから、一つ二つ教えていただきましょう、三度教えていただけば、どうやら独り歩きができるだろうと存じます。それでも私は毎晩、琵琶を流して歩きまするうちに、諸方のお師匠さんの軒下へ立って、いろ
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