地よさそうに、
「だから、わたしは、あの人が好きなのです、あの人は、平気で人を殺すから、それで、わたしは、あの人が好きです、あの人は、若い女の血を飲みたがっているのでしょう、わたしが傍にいれば、人は殺さないのです、女は殺さないはずです、わたしが傍にいないから、それでほかの女を殺してしまいます、わたしと離れているから、それで咽喉《のど》が乾いて我慢がしきれないで、女を殺すんです、無理もありません、そうでしょう、毎晩、出かけるのは、吉原へ行くんじゃありません、ここから吉原へ行くんじゃありません、ここから吉原まで、あの人に往来《ゆきき》ができるわけがありません、そんなことをしたがる人じゃありません、あれは辻斬に出るのです、人を斬りに出るのです、それは今に始まったことじゃありません、甲府にいる時もそうでした、あの人は平気で何人でも殺してしまいます。ええ、わたしだけはよく知っています、どこで、どんな人を幾人斬ったということまで、ちゃんと帳面に記してあるんですから。それで今晩も出かけたのでしょう、どっちへ行きました、どの方角へ行きました、米友さん、これから、わたしをその方角へ連れて行って下さい」
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