二
ちょうど、その晩のことでありました。柳橋の、とある船宿の二階で、手紙を読んでいるのは駒井甚三郎であります。
「殿様、あの、お客様が参りました」
取次いだのは、宿のおかみさんらしくあります。
「あ、待ち兼ねていた、ここへ通してもらいたい」
駒井は読んでいた手紙を巻きながら、待っていると、
「御免下さりませ」
おかみさんに案内されてそこへ面《おもて》を現わしたのは、年の頃五十恰好で、しかるべき大工の棟梁《とうりょう》といったような人柄の男でありましたが、甚三郎を見ると急に改まって、
「これはこれは駒井の殿様でござりましたか、これはお珍らしいところで、思いがけなくお目にかかりまする」
恭《うやうや》しくそこへ両手を突いたが、驚きのうちにも、相当の親しみがあるらしい。
「寅吉、ほんとに暫くであったな」
「いや、もう、ずいぶん思いがけないことでございました、お手紙が届いてから、どなた様かとしきりに思案を致しては参りましたが、駒井の殿様とは、夢にも存じませんことでございました」
「まあ、ともかく、こちらへ入るがよい」
「それでは、御免を蒙りまして」
寅吉と呼ば
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