うしてわたくしが、これほどの目に遭わなければならないのですか、それがわかりません、お助け下さいまし」
井戸の車がミシミシと軋《きし》る音を聞いていると、盲法師は神尾の暴力を必死にこらえて、井戸の縄にとりすがっているもののようです。神尾主膳は、無茶苦茶に残忍性が嵩《こう》じて、口も利《き》けないほどに昂奮《こうふん》しているらしく、ただ鼻息のみが荒く、力を極めて一人の盲法師を井戸の中へ投げ込もうとしているもののようです。そうさせじと争う力は、盲目《めくら》の小坊主ながら侮り難きものと見えて、神尾が力を極めてやっても、ややもすればもてあますほどの抵抗力があります。最初は神尾の腕にとりすがってみたが、それを※[#「てへん+劣」、第3水準1−84−77]《も》ぎ離されると、今度は着物に取付きました。その着物が破れると、今度は井戸桁に取付きました。井戸桁に取付いたのを※[#「てへん+劣」、読みは「も」、第3水準1−84−77]ぎ取られると、今は頼みの綱の井戸縄に、しっかりと抱きついて、物哀れな悲鳴を揚げているのであります。死を怖るることかくの如く、生に愛着することかくの如くなればこそ、神尾の残
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