てするその会話は、一種異様なものに聞えます。まことの金伽羅童子、制多伽童子がこの場へ天降《あまくだ》りして、戯れ遊んでいるのではないかとさえ思われるほどに、世間ばなれがしています。
思いがけなくその幸福を受けたのは机竜之助でありました。次の間で天童の戯れ遊ぶことによって、この世からなる地獄の責めを免れました。「恋慕」を聞き、すががき[#「すががき」に傍点]を聞き、「岡崎女郎衆」を聞いているうちに、いつかは知らず恍然《うっとり》として、夢とうつつの境に抱き込まれました。いいあんばいに、ほとんど一日を寝通して、その日の黄昏《たそがれ》にこの家を出て行きました。駕籠《かご》に乗って帰る途中で、昨夜《ゆうべ》の金伽羅童子と制多伽童子のことが思い出され、あの尺八の音色が忘れられません。
歌の声の可憐なのが、耳許についているようです。
そこで、駕籠の中から、駕籠舁《かごかき》に向って注文しました、
「尺八を一本求めたいが、新しいのでもよし、古いのでもかまわない」
やがて、その望みが叶うて、とある道具屋で、駕籠舁が一本の煤色《すすいろ》した尺八を求めてくれました。
駕籠の中で竜之助は、その
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