尺八の音《ね》が起りました。
「ウーホフ、ホウエヤ……」
こんどはすががき[#「すががき」に傍点]を始めました。淀《よど》みもなく三べん吹き返したすががき[#「すががき」に傍点]は、子供の歌口とは思われないほどに艶《つや》のあるものです。
「うまいね、金伽羅さん」
制多伽は、その短笛の音色に心から感心して賞《ほ》めると、賞められた金伽羅は無邪気に嬉しがって、
「あんまり賞めないで頂戴、笛がいいんだよ、笛のせいで、よく吹けるんだね」
「金伽羅さん、こんどはおかざき[#「おかざき」に傍点]をおやりよ、ね、おかざき[#「おかざき」に傍点]をやって下さいな」
「やりましょうかね。では、おかざき[#「おかざき」に傍点]をやるから制多伽さん、お前、おうたいなさいな」
「あ、歌いましょう」
隣室の人を驚かすことを怖れて、歌わないと言った誓いを忘れて、二人はまた興に入《い》ってしまいました。
[#ここから2字下げ]
岡崎女郎衆
岡崎女郎衆
岡崎女郎衆はよい女郎衆
岡崎女郎衆はよい女郎衆
[#ここで字下げ終わり]
二人を知っている者は、それでよかろうけれども、二人を知らない者にとっては、壁を隔て
前へ
次へ
全221ページ中115ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング