二人は、ここの家に拾われて、掃きそうじ[#「そうじ」に傍点]や、庭の草取りや、追廻しをつとめていました。天性、二人は音楽が好きで、楼の人の学ぶのを見まね、聞まねに、さまざまの音曲を覚えています。人定まった後に誰もいないような部屋を選んで、二人はこうして、笛を吹き、歌をうたうのが何よりの楽しみであります。
「ねえ、金伽羅《こんがら》さん、今度はすががき[#「すががき」に傍点]をおやりよ」
とすすめたのは、歌をうたっていた制多伽《せいたか》であります。
「制多伽さん、このお隣には人がいるのよ」
金伽羅童子は、尺八を膝に置いて返事をしました。
「え、人がいるの、お隣に?」
「ええ、病気なんでしょうよ、はじめのうちは大へん苦しがっていたんですけれど、そのうちに癒って寝てしまったようですから、それで、わたしは笛を吹き出しました。あんまり吹いたり、歌ったりして、せっかく寝た人を起すと悪いね」
「そう、でも、病気が癒って寝てしまったんなら、いいでしょう、すががき[#「すががき」に傍点]をもう一つおやりよ、わたしは歌わないで、だまって聞いているから」
「そうしましょうか」
やがて、また、しめやかな
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