う落着こうとするのだか、その見当は、どうもわかり兼ねます。それでも、お銀様との間に意志の疏通が出来ているならば、どこかで謀《しめ》し合わせて二人で身を隠すものとも思われるが、お銀様は、あれからああして、米友を案内にして心当りを探しているくらいだから、ここ暫く、二人の間の縁《えにし》の糸が切れていると見なければなりません。そうしてみると、机竜之助の落ち行く先はいよいよ想像がつかなくなります。
 いろいろ思いめぐらしてみると、思い当るところが、たった一つあるにはある。机竜之助には一人の男の子があったはずで、その名は郁太郎といって、それを養っているのが水車番の与八であることは、もう久しいものであります。そう言ってみればなるほど、急に里心がついて、我が子に逢ってみたくなったかも知れない。紀伊の国竜神の奥においても、そのことを見えぬ眼の夢に見て、血の涙をこぼしたことがあるはずです。甲斐の国|躑躅《つつじ》ケ崎《さき》の古屋敷でも、峠を一つ越えて甲斐と武蔵の境を抜けさえすれば、そこにわが子の面影《おもかげ》を見ることを、人に語って涙を呑んだこともあるはずです。江戸へ着いて、いずれの時かそれを思い起
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