…これが一生のお別れになるか知れませんでございます」
 こう言って、盲法師の弁信は泣きながら、草鞋《わらじ》ばきで、笠はかぶらないで首にかけ、例の金剛杖をついて清澄の山を下ってしまいました。それは暴風雨《あらし》があってから五日目のことで、誰がなんと言っても留まらず、山を下って行く、その後ろ姿がいかにも哀れであります。

         九

 それとほぼ時は同じですけれども、ところは全然違った中仙道の碓氷峠《うすいとうげ》の頂上から、少しく東へ降ったところの陣場ケ原の上で、真夜中に焚火を囲んでいる三人の男がありました。
 一昨夜の暴風雨《あらし》で吹き倒されたらしい山毛欅《ぶな》の幹へ、腰を卸《おろ》しているものは、南条|力《つとむ》であります。この人は曾《かつ》て甲府の牢に囚《とら》われていて、破獄を企てつつ宇津木兵馬を助け出した奇異なる浪士であります。
 その南条力と向き合って、これは枯草の上に両脚を投げ出しているのは、いつもこの男と影の形に添うように、離れたことのない五十嵐甲子雄《いがらしきねお》であります。甲府の牢以来、この二人が離れんとして離るる能《あた》わざる※[#「孑
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