口ぶりで、お角のすることの効無《かいな》きかを諷《ふう》するように言いますから、こんなことにも意地になったものと見え、
「いま解いて上げるよ、結んだものだから解けなくちゃあならないんだから。切ってはなんだか冥利《みょうり》が尽きるわよ」
お角はしきりに縄に食いついて放そうともしません。
「岩入坊は縛るのが名人だからね、岩入に縛られちゃ往生さ」
子供は、こんなことを言いながら、お角のするようにさせておりました。
「あ、痛!」
あまり力を入れて、歯を食い折ったか、ただしは唇でも噛み切ったか、面《かお》を引いたお角の口許に、にっと血が滲《にじ》んでおりました。
「解けましたよ」
その時にお角は、クルクルと縄の一端を持ってほごしてしまいました。
子供の手を自由にしてやって、お角は元の座に戻り、紙をさがして口のあたりを拭きました。滲み出した血を、すっかり拭き取って平気な顔をしているから、大した怪我ではないでしょう。
「どうも有難う」
子供はそこで、お角と甚三郎の前へ両手を突いてお辞儀をします。
「清澄から、これまで一人で来たのか」
「エエ、一人で逃げて来ました」
そこで甚三郎は、じ
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