しこ》まった子供の背後《うしろ》へ廻って見るとなるほど、その小さな両手を後ろに合せて、麻の細い縄で幾重《いくえ》にもキリキリと縛り上げてありました。
お角は一生懸命にその結び目を解いてやろうとして焦《あせ》ったが、容易には解けそうもありません。
「ずいぶん固く結《ゆわ》えてあるわね、これじゃなかなか取れやしない」
お角はもどかしがって、ついにその縄の結び目へ歯を当てました。
「小柄《こづか》を貸して上げようか」
甚三郎は見兼ねて好意を与えると、お角は首を振って、
「いいえ、結んだものですから解けそうなものですね、解けるものを切ってしまうのは嫌なものですから」
お角はしきりに縄の結び目へ歯を当てて、それを解こうとしましたが、いったいどんな結び方をしたものか知らん、ほんとに歯が立ちません。けれども、お角は焦《じ》れながらも、いよいよ深く食いついて、面《かお》をしかめながらも首を左右に振っています。
「おばさん、ずいぶん固く結えてあるでしょう、岩入坊《がんにゅうぼう》が縛ったんですからね、とても駄目でしょうよ、口では解けないでしょうよ、刃物で切っちまって下さい」
子供は、ややませた
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