した。
 鼠色をした筒袖の袷《あわせ》を着て、両手を後ろへ廻し、年は十歳《とお》ぐらいにしか見えないが、色は白い方で、目鼻立ちのキリリとした、口許《くちもと》の締った、頬の豊かな、一見して賢げというよりは、美少年の部に入るべきほどの縹緻《きりょう》を持った男の子であります。
「お前さん、どうしたの」
 最初は怖れていたお角も、寧《むし》ろ人間並み以上の子供であったものだから、落着いて咎《とが》め立てをする勇気が出ました。
「助けて下さい」
 子供はそこへ跪《かしこ》まってお角の面《かお》を見上げました。その時、見ればその眼が白眼がちで、ちらり[#「ちらり」に傍点]とした、やや鋭いと言ってよいほどの光を持っているのを認められます。ただ、その身体の形を不恰好《ぶかっこう》にして見せるのは、最初から両手を後ろに廻しっきりにしているからです。
「どこから逃げて来たの」
「清澄山から逃げて来ました」
「清澄山から?」
「ええ、清澄で坊さんに叱られて、縛られました。おばさん、あたいの手を、縛ってあるから解いて下さい」
「縛られてるの、お前さんは」
 お角がなるほどと心得て、そこへちょこなんと跪《か
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