三郎の面《おもて》を流し目に見ると、取り出した短銃を膝の上へのせて微笑しているその面《かお》が、なんとも言われない男らしさと、水の滴《したた》るような美しさに見えました。
そこで、縁の下がひっそり[#「ひっそり」に傍点]としてしまいました。ミシミシと音を立ててお角の坐っていた下あたりに這い込んだらしい物の音が、急に静まり返って、兎の毛のさわる音も聞えなくなりました。
「逃げてしまいましたろうか」
「いや、逃げはせん、この下に隠れている」
お角が、おどおどしているのに、甚三郎は相変らず好奇心を以て見ているようです。
「いやですね、いやなお稲荷様に見込まれては、ほんとにいやですね」
お角は、座に堪えられないほど気味悪がっているのに、
「動けないのだ……」
と言って、甚三郎は膝の上にのせた短銃をながめているのであります。
「おや、小さな鉄砲。殿様は、いつのまにこんなものをお持ちになりました」
お角はその時、はじめて甚三郎の膝の上の短銃に気がついて、そうしてその可愛らしい種子《たね》が島《しま》であることに、驚異の眼を向けました。
「いつでもこうして……」
甚三郎が、それを手に取り上
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