のつもりでやってくれ、いいかい」
大きな声で怒鳴りました。
「おーい」
水主《かこ》や荷揚《にあげ》が腕を揃えて帆を卸《おろ》しにかかろうとする時に、※[#「風+(火/(火+火))」、第3水準1−94−8]弗《ひょうふつ》として一陣の風が吹いて来ました。
「あ、こいつは堪らねえ」
その沫《しぶき》を浴びた者が、荷物の蔭へ逃げ込むと、
「上からも落ちて来たようだぜ」
果して水は、横から吹きかけるのみではありません。
真暗になった天《そら》から、パラパラと雨が落ちて来たのを覚《さと》った時分に、船は大きな丘に持ち上げられるような勢いで辷《すべ》り出しました。そうして或るところまで持って行かれるとグルリ一廻りして、どうッと元のところへ戻されて行くようです。
「さあ、いけねえ」
乗合はそれぞれしっかりと、手近なものへ捉《つか》まりました。
「下へ降りておくんなさい、急いじゃ駄目だ、この綱へつかまって静かに、静かに」
船頭と親仁《おやじ》は声を嗄《か》らして乗客を一人一人、船の底へ移します。船の底の真暗な中へ移された二十三人の乗合は、そこで見えない面《かお》をつき合せて、
「どうも
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