にどこをくぐってか、もう庭の中へ入り込んでいて、しかも、極めて物慕わしげに、竜之助の傍へ寄って行くことであります。
 ムクが近寄ると、竜之助がその手を伸べて頭のあたりを探って撫でてやると、ムクは、ちゃんと両足を揃えて、竜之助の傍へ跪《ひざまず》きました。
 竜之助は何か言って犬の頭へ手を置いて、犬と一緒に仲よく日向ぼっこをしている体《てい》です。
 これは米友にとっては、非常なる驚異でありました。ムクは、そうやすやすと一面識の人に懐《なつ》くような犬ではない。彼は善人を敵視しない代りに、悪意を持った者に対しては、ほとんど神秘的の直覚力を持った犬であります。まあ、伊勢から始まって、この江戸へ来ての今日、ムクがほんとうに懐いている人は、お君と、おいらと、それからお松さん――その三人ぐらいのものだと思っている。しかるに、いま自分の傍を離れて、かえって、見も知りもせぬ、あの奇怪極まる盲者《もうじゃ》の傍へ神妙に侍《はべ》っているムクの心が知れない。
 米友は何か知らん、胸騒ぎがしました。じっとしていられないほどに惑《まど》わしくなりました。声を立ててムクを呼び立ててみようとして、身を屈《かが》
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