て来て、
「エライことが出来たなあ」
菰を女の屍骸へうちかけて、
「好い女だなあ、恋の恨みだろうか。いったい、ここでやっつけたのか、殺してここへ持って来たのか」
菰をかぶせてしまうのを惜しそうに、その屍骸を見比べていると、
「エエ、それは殺してここへ運んで参ったのではございません、あの土手の上で、なぶり殺しにして置いて逃げました、殺した人は男には違いありませんけれども、決して恋の恨みではございません、殺したくって、殺したくって、堪《たま》らない人なんでございます、よほど腕の利いた人で、無暗に人が殺したいのです、手にかけておいて、矢の倉の方へ逃げました」
突然にこう言い出したのは、人数の後ろに超然として、見えない眼をみはっていた弁信であります。
「エ、お前はそれを見ていたのかい」
辻番もその他の者も驚きました。弁信の言い分があまりに突然であったから、辻番らは呆気《あっけ》に取られているところへ検視の役人が来ました。それで型の如く、年頃、恰好、着類、所持の品、手疵《てきず》の様子を調べた上に、改めて宇治山田の米友に向いました。
「其方《そのほう》のところと、姓名は」
「鐘撞堂新道、
前へ
次へ
全206ページ中188ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング