ようだが、ドチラへお帰りになるの」
「エエ、私でございますか、私はこれから本所へ帰るんでございますよ、本所の法恩寺の長屋に住んでいる、弁信というものでござんすからね」
「まあ、本所へ帰るの、それじゃ、わたしも少し早いけれど、一緒に帰りましょう」
 ずっと前に、宇治山田の米友が、この通りで、同じような女の声で呼び留められたことを御存じの方もございましょう。
 柳の蔭から出て来たのは、お蝶と言ったその時の女でございます。
 お蝶は、決して醜い女ではありません。もう二十二三になるでしょうか、背がスラリとして色も白く、面《かお》に愛嬌があります。こんなところには珍らしいくらいの女で、明るい世間へ出しても、十人並みで通る女でありました。手拭を頭から被《かぶ》って出て来たお蝶は、弁信の傍へ寄って来て、
「わたしも、本所の鐘撞堂《かねつきどう》まで帰るんですから、送って上げましょうか」
「はい、有難うございます」
 お蝶は弁信の案内者になりました。弁信は異議なくその好意を受けて、二人は打連れて淋しい河岸を歩いて行きます。
「弁信さん、あなたは法恩寺様の長屋に、ひとりでいらっしゃるんですか」
「エエ、
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