って珍らしがり、わざわざ自分の屋敷へまで招《よ》んでくれる人がありました。そんな人の与える祝儀が唯一の実入《みい》りで、市中で銭を与える人は、前に言う通り極めて少ないものでありましたけれども、弁信は怠らずに、それを語って歩きます。
 この頃、両国で茂太郎の評判が高いのを聞き、もしやと思って今日は出がけに、この軽業小屋を訪ねてみましたけれど、楽屋番はすげ[#「すげ」に傍点]なく断わってしまいました。すげ[#「すげ」に傍点]なく断わられても、大して悄《しょ》げもせずに路次を立ち出でました。
 で、どこをどう歩いて来たか、その夜になって、もう琵琶を袋へ納めて背中へ廻し、家路に帰ろうとする気配《けはい》で通りかかったのは、例の柳原河岸《やなぎわらがし》です。
「もし、ちょいと」
 河岸の柳の蔭から呼ぶものがありました。呼ばれる前に立ってしまった弁信は、
「はい、どなたか私をお呼びになりましたか」
 そう言って例の法然頭《ほうねんあたま》を左右に振り立てました。
「ちょいと」
 柳の蔭で、声ばかりが聞えます。その声は若い女の声であります。
「お呼びになったのは私のことでございますか、何ぞ私に御用
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