、自分から鞘当《さやあ》てを試みました。
武士として鞘当てを受けたのは、果し状をつけられたようなものであるにかかわらず、その武家は知らぬ顔に、人混みに紛れて逃げ去ろうとするのは歯痒《はがゆ》い。
到底このままには見過ごし難いから、あとをつけると、件《くだん》の覆面は人混みに紛れて、見返り柳をくぐり土手へ出て、暫く行くと辻駕籠《つじかご》を呼びました。
それを見ると兵馬も、同じように駕籠を傭おうと思ったけれど生憎《あいにく》それはなし、刀と脇差を揺《ゆ》り上げて、いずこまでもこの駕籠と競争する気になりました。
この駕籠は、竜泉寺方面から下谷を経て、本郷台へ上ります。
本郷も江戸のうちと言われた、かねやすの店どころではなく、加州家も、追分も、駒込も、いっこう頓着なしに進んで行くこの駕籠は、果してどこまで行ってどこへ留まるのだか、ほとほと兵馬にも見当がつかなくなりました。
しかしながら、駕籠は、なおずんずんと進んで行くうちに、左右は物淋しい田舎《いなか》の畑道のようなところになっているようです。おおよその方向と、歩いて来た道程で察すれば、駒込の外れか、伝中《でんちゅう》あたりか、
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