大門《おおもん》を出た宇津木兵馬は、すれ違いに妙な人と行逢って、それを見過ごすことができなかったのは。それは羽織袴に大小を帯びた立派な武家の姿をしていたが、供人は一人もつれず、面《おもて》は厳重に覆面で包んでいます。
 兵馬はこの廓《さと》へ出入りするごとに、往来の人の姿に注意を払っていないことはない。ことに覆面した武家姿のものに向っては、尾行までしてみることが一度や二度ではなかったが、この時すれ違った覆面の人もまた、その例に洩るることができませんでした。
 兵馬はワザとやり過ごして様子をうかがうと、この覆面の武家の後ろ姿に合点《がてん》のゆかぬ節々が幾つも現われてきます。第一、この武家の歩きぶりがつとめて勢いよく闊歩しているようなものだが、どこやらに無理があります。第二には、差している大小が釣合わないということはないが、なんとなく重そうに見えて、差し方がこなれていないことです。この二つを以て見ると、さるべき者が、わざと武士の姿をして来たものか、そうでなければ、病気上りの人ででもありそうです。
 兵馬は、あまり不思議だから、非常中の非常手段ではあったが、ワザと近寄ってその武家にカチッと
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