るのは一つもないという有様でした。
「あんまり、これでは悪戯《いたずら》が強過ぎる、なんぼなんでも僻《ひが》みが強過ぎる」
 お角は、この悪戯がお銀様の仕業《しわざ》であることは、よくわかっています。そうして、この絵本のうち、美しい男も、好い男も、強そうな男も、いくらも男の数はあるけれども、それには一指も加えないで、女だけをこんなに傷つけ散らし、汚し散らして、ひとり心を慰めようとするお銀様の心持も大概はわかっているが、それにしてもあんまり僻みが強過ぎて、空怖ろしいと思わずにはおられなくなりました。
 いったい、お角はかなり人を食った女で、男も女も、あんまり眼中には置いていない方だが、どうもお銀様という人にばかりは、一目も二目も置かなければ近寄れないような心持で、これまでいるのが不思議でした。
 あの呪われた、お銀様の顔が怖ろしいというわけではなく、どうもお銀様の傍へ寄ると、お角は何かに圧えつけられるようで、ほかの男や女のように、容易《たやす》くこなす[#「こなす」に傍点]ことができません。何を言うにも大家の娘で、持って生れた品格というものが、お角と段違いなせいであるならば、お角は駒井能
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