目的があって、どこへ行くのだろうと、以前を知るお角はそれが不思議でなりません。
それで、四辺《あたり》を見廻していると、少し離れたところの机の上にも、その左右にも、夥《おびただ》しい書物が散乱しているのであります。この土蔵に蔵《しま》われた本箱の中から、ありたけの本を取り出して、お銀様が、それを片っぱしから読んでいるものとしか思われません。さすがに大家に育った人、お角なんぞから見ると、たった一人で牢屋住居のような中におりながら、別の天地があって、読書三昧《どくしょざんまい》に耽《ふけ》っていられることが羨ましいように思われます。
お角は、机の傍へ寄って見ましたけれど、ドチラを見ても、四角な文字や、優しい文字、とてもお角の眼にも歯にも合わないものばかりです。気象の勝ったお角は、なんだか自分が当てつけられるように感じて、書物を二三冊、あちらこちらにひっくり返すと、ふと、思いがけない絵の本が一つ現われました。
それは極彩色の絵の本で、さまざまの男や女が遊び戯れている、今様《いまよう》源氏の絵巻のようなものでありました。
お角はそれを見ると莞爾《にっこ》と笑って、
「それごらん、お銀様
前へ
次へ
全206ページ中150ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング