巣鴨の化物屋敷へ乗り込むなんぞは、我ながら凄いもんだ」
 何か嬉しくてたまらないことがあるらしく、しきりに独言《ひとりごと》を言い言い歩きます。
「ところで、今様《いまよう》の鈴木主水《すずきもんど》を一組こしらえ上げてしまったなんぞは、刷毛《はけ》ついでとは言いながら、ちっと罪のようだ」
 こう言ってニタリと笑いました。この先生こそは、相生町の老女の家の兵馬を訪ねて来て、兵馬が出たあとをお松に見つかって呼び込まれて、何か兵馬の近頃の身の上について、お松に喋《しゃべ》ってしまったことがあるらしい男です。
 しかし、この先生のことだから、甲に向って喋ることと、乙に向って喋ることの間に、味をつけないで喋る気遣いはありません。そうしてその間に何かうまい汁がありとすれば、その余瀝《よれき》を啜《すす》って、皿まで噛《かじ》ろうという先生だから、お松に尋ねられたことも、素直には言ってしまわないことはわかっています。おべんちゃら[#「べんちゃら」に傍点]と、お為《ため》ごかしを混合《ごっちゃ》にして、けだもの茶屋の飲代《のみしろ》ぐらいは、たしかにお松からせしめていることは疑うべくもありますまい。
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