ただ、そのくらいならばいいけれども、今様の鈴木主水を一組こしらえたというような言葉は、どうも聞捨てがならない。兵馬と東雲《しののめ》との間が、果してどんなわけになっているのか知れないが、それをお松に向って輪をかけて吹聴《ふいちょう》し、お松を嗾《け》しかけるようなことにしては、これはたしかに罪です。お松はうっかりそれに乗せられるほどの女ではないけれど、こんな男の細工と口前が、ついつい大事を惹《ひ》き起さないとも限らないから、実際は、お松も兵馬も、悪い奴に見込まれたと思わねばなりますまい。
それよりもなお危険なのは、この男がこれから、染井の化物屋敷へ行くと言ったことであります。染井の化物屋敷とは、つまり神尾主膳らの隠れ家をいうものです。神尾の許へ行くからには、どうせ碌《ろく》なことでないのはわかっています。そうしてこの男が老女の家を辞して帰る時に、垣根の蔭から何か、そっと隙見《すきみ》をしてその途端に、
「占めた」
と言って嬉しがりはじめたのは、やっぱりその辺に何か売り込むことが出来て、それを土産《みやげ》に神尾へ乗り込もうという気になったのは、前後の挙動で明らかにわかります。
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