童《おおわらわ》で漕ぎつけました。
その二人の客の一人は、どうも見たことのあるような年増の女です。つとめて眼に立たないようにはしているけれど、こうして男ばかりの乗客の中へ、息をはずませて乗り込んでみると、誰もその脂《あぶら》の乗った年増盛《としまざか》りに眼を惹《ひ》かれないわけにはゆかないようです。この女は、両国橋の女軽業の親方のお角であります。
「庄さん、それでもよかったね、もう一足|後《おく》れると乗れなかったんだわ」
「いいあんばいでございましたよ」
お伴《とも》であるらしい若い男は、歯切れのよい返事をして、
「皆さん、少々御免下さいまし、おい、小僧さん、ここへ敷物を二枚くんな。親方、これへお坐りなさいまし、ここが荷物の蔭になってよろしうございます」
船頭の子から敷物を二枚借り受けて、酒樽の蔭のほどよいところへ、それを敷きました。帆柱の下にあたる最上の席は、もう先客に占められているのだから、まあ、この若い者が見つくろったあたりが、今では恰好《かっこう》のところであろうと思われます。
お角は遠慮をせずにその席へつくと、若い者がその傍へ、両がけの荷物を下ろして、どっかと坐り
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