二間梯子のところへ行って、それを右の手に抱え込んで、甲源一刀流の掛額のところに立てかけました。梯子を立てかけた山崎譲は、左手に濡手拭をさげたままでドシドシと梯子を上って行くから、
「旦那、何をなさるんでございます」
 甘酒屋の親爺が仰天すると、梯子を一段だけ踏み残して上りつめていた山崎譲は、背伸びをして、その甲源一刀流の大額の、門弟席の初筆から三番目の張紙の上へ、グジャグジャに濡れていた手拭を叩きつけたから、
「先生、ナ、ナニをなさるんで」
 七兵衛もまた、甘酒屋の老爺と同じように慌《あわ》てました。
「この男をこうしておくのが癪にさわるんだ、開眼導師《かいげんどうし》には、水戸の山崎譲ではちっと不足かも知れねえ」
 濡らしておいた張紙をメリメリと引きめくると、その下に隠れていたまだ新しい木地の上に、ありありと現われたのはなるほど、机竜之助相馬なにがしの文字であります。

         十二

 その前後のことでありました、碓氷峠《うすいとうげ》の横川の関所から始まって、同心や捕手が四方へ飛びましたのは。
 聞いてみると、それはこんなわけです。昨夜、加州家の宰領の附いた荷駄《にだ》
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