私が三里歩けば、あいつは五里歩いて見せようという意地っ張りがどこまでも附いて廻って、とうとうあの片腕を落すまでになったんでございます。それでも持って生れた性根《しょうね》というやつは、なかなか直るもんじゃなく、私が先生について一肌脱ごうということになると、あいつが、いい気になって、浪人たちの方へ廻り、ああやって意地を見せようというんですから、全く始末の悪い奴ですよ。ナニ、大した悪党じゃございませんが、ずいぶん小癪にさわるいたずら野郎でございます」
 七兵衛は草鞋《わらじ》の紐を結び換えながら、こんなことを言うと、額面を仰いでいた山崎が、何か四方《あたり》を見廻して、額堂の軒に立てかけてあった二間梯子のあたりへ横目をくれながら、
「そのことを言っているのじゃねえ……七兵衛、ちょっとその手拭を貸してくれ。爺さん、この手桶を、こっちへ出してくれねえか」
「へえへえ」
 甘酒屋の親爺《おやじ》は言われるままに、柄杓《ひしゃく》の入った手桶を取って山崎の前へ提げて来ると、山崎譲は柄杓を右の手に取って、左の手で、七兵衛から借受けた手拭を、少し長目に丸めてザブリと水をかけ、さいぜん横目にながめていた
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