した。
「おや、そうでございましたか。実はあの時分、私共も、あの方を尋ねて富士川口から甲州入りをしていたんでございますが……とうとうお目にかかることができませんでした」
 七兵衛はこう言って、何の気もなしに縁台の薄べりへ手を置いた時に、何か手先にさわるものがありました。
 指の先へ触ったものを、なにげなく眼の前へ抓《つま》んで来て七兵衛は、
「おや」
 物珍しそうに、それをじっと見込みました。
「先生、先生」
「何だ」
「や、こいつはいい物が手に入りましたぜ」
「いい物とは何だ」
「これでございます、こんないい物が手に入るというのは、天の助けでございますな、お喜び下さい」
「何のことだか、拙者にはわからん」
と言って山崎譲が、七兵衛の手に抓《つま》み上げたものを見ると、それは径一寸ばかりの真鍮《しんちゅう》の輪にとおした、五箇《いつつ》ほどの小さな合鍵でありました。
「おいおい、お爺《とっ》さん」
 七兵衛は山崎譲にその合鍵の輪を渡して、自分は甘酒屋の親爺を呼びました。
「はいはい」
「もうちっと先に、これこれのお客が、お前さんのところへ見えなかったかい。これこれではわかるまいが、ちょ
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