町家につづいているものらしく、左の方を見ると、そこに一廓《いっかく》の人家があって、あたりの淋しいのにそこばかりは、昼のようにかがやいているのを認めます。
「おい、駕籠屋《かごや》」
後ろから呼びかけたものがあります。
「駕籠屋?」
米友は振返ると、二三人づれの侍らしくあります。
「やあ、駕籠屋ではなかったか」
米友の姿を見て行き過ぎてしまいました。米友は、自分が駕籠屋に間違えられたと思って怪訝《けげん》な面《かお》をして、それをやり過ごしてしまうと、
「もし、旦那、吉原までお伴《とも》を致しやしょう、大門《おおもん》まで御奮発なせえまし、戻りでございやすよ」
この声は駕籠屋であります。前には駕籠屋と間違えられて、今度は駕籠屋から呼び留められました。
「おやおや、子供か、お客様じゃあねえんだ」
駕籠屋はこう言って、米友を通り抜いてしまいました。
ここをいずれとも知らず、わざとウロウロ歩いていた米友。今の駕籠屋の間違って勧めた言葉によって、
「ああ、そうか、あれは吉原だな」
と感づきました。吉原の名は、さすがに米友も国にいる時分から聞いていないことはない。幸い、道草を食って行
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