て帰らねばならぬと思って、四方《あたり》を見廻して突立っていました。米友はまだこんなところへ来たことはないから、そこで暫らく方角を考えて立っていました。
 田圃の真中に立って米友は、ここで梯子の必要がなくなってみると、どう処分するか。それは心配するほどのものはなく、無雑作《むぞうさ》に梯子の一端に手をかけると、それを二つに折ってしまいました。それは本来折れるように出来ている梯子で、二つに折ったのをまた四つに畳みました。なんでもないことで、こうして米友の梯子は折畳みができるようになっている。四つに畳んでしまった後に、桁《けた》は桁、桟《さん》は桟で取り外して、それを一まとめにして、懐中から麻の袋を取り出して、それで包んで背中へ無雑作に投げかけました。物事は他《はた》で見るほど心配になるものではなく、どうするかと見ていた梯子の問題は、米友の一存で手もなく片づけてしまいました。
 その畳梯子を背中に背負った米友は、手拭を出して頬冠《ほおかぶ》りをして、尻を引っからげてスタスタと田圃道を歩き出しました。
 ここで地の理を見ると、右手は畑、左は田圃になっていました。右の方は畑を越して武家屋敷から
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