しがって転がり廻りました。
前の方の連中は、喧嘩でも起ったのか知らと振返って見ると、
「あッ、お通りだ」
喧嘩ならば頼まれないでも、弥次に飛び出して拳を振り廻す連中が、大名の行列と気がついて、悄気返《しょげかえ》って逃げ出しました。
梯子に跨《またが》ってさいぜんから、この様子を見ていた米友は、キリキリと歯を噛み鳴らして、丸い眼を据えて、狼藉《ろうぜき》を働く侍――いくら人集《ひとだか》りがあるといったからとて、遠慮すればその外を通れない道ではないのに、こうして人間を蹴散らし、踏倒して通る大名行列というやつの我儘《わがまま》と、その我儘を助けるお供の侍どもの狼藉を見ると、口惜《くや》しさに五体が慄えました。
いったい、このごろの米友は、殿様とか大名とかいうものを、心の底から憎み出しているのであります。殿様とあがめられ、大名と立てられる奴等、その先祖が、どれだけ国のために尽し、人のために働いたか知らないが、今の多くの殿様というやつは薄馬鹿である。その薄馬鹿を守り立てて、そのお扶持《ふち》をいただいて、士農工商の上にいると自慢する武士という奴等が、癪にさわっているのであります。米友
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