君は、なんの苦もなく二十両を用立ててくれました。
両女の分を合せて三十両を借受けた宇津木兵馬は、それを懐中して、いざとばかりに金助を促してこの家を立ち出で、飛ぶが如くに吉原へ駕籠を向けました。
「お松さん」
そのあとでお君は、何か心がかりがありそうにお松を呼び、
「そういうわけならば心配することはないようだけれど、なんだかわたしは気にかかってなりませぬ、御老女様には申し上げてはいけないと兵馬さんはおっしゃったそうですけれど、南条様や五十嵐様に御相談申し上げて、御様子を見に行っていただいたらどうでしょう」
お君から勧められて、お松もその気になりました。
九
鐘撞堂新道《かねつきどうしんみち》に巣を食う大道芸人の一群。その仲間が自ら称して道楽寺の本山という木賃宿《きちんやど》。そこに集まった面々は御免の勧化《かんげ》であり、縄衣裳《なわいしょう》の乞食芝居であり、阿房陀羅経《あほだらきょう》であり、仮声使《こわいろづか》いであり、どっこいどっこいであり、猫八であり、砂文字《すなもじ》であり、鎌倉節の飴売《あめう》りであり、一人相撲であり、籠抜けであり、デロレ
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