しいのじゃ、二十両ほど」
「二十両」
お松は繰返して、これも当惑の色が現われました。
「わたしの持っているのが、今、十両ほどありますけれど……」
「拙者《わし》は、僅かに二三両しか持合せがないので困っている」
「どうしましょうね。わたしのを差上げてまだ、大へんに足りないんでございますね、困りました」
お松はせっかくの兵馬の無心を、充分に満足させることのできぬのを、ひとかたならず悶《もだ》えるように見えます。
「ともかく、それだけを借用したい、あとはまた何とか工夫するから……」
「お待ちなさいませ」
お松は自分の部屋へ取って返して、紙入れに入れたままを兵馬の手に渡しながら、
「あとは、あの、わたしから御老女様へお願い申してみましょうか」
「御老女へ……それはいかん」
兵馬は頭を振りました。
「でも、急なお入用《いりよう》ならば、わたしから御老女様へお願いしてみるのがいちばん近道と思います、快く聞き届けて下さるに違いありません」
「しかし、この金の入用な筋道は、御老女様には話せない」
「いったい、何に御入用なんでございます」
「実はそなたの前で言うのも恥かしいが、これから吉原まで行
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