少なくとも二十や三十の金」と言われて兵馬は、金助の態度を憎らしく、図々しいものだと思ったが、
「それもそういうものか知らん、暫く待っていてくれ」
何を考えたか、兵馬はこの一刻を急ぐ場合に、金助を一人そこへ残してこの間を立去りました。
兵馬は老女の許しを得て、お松を廊下に呼び出して、
「お松どの、まことに申し兼ねるが無心がある……」
廊下で立ちながら、苦しそうにこう言いました。
「何でございます、兵馬さん」
お松は心配そうに兵馬の面《かお》を見ました。兵馬から折入ってこんな無心を言いかけるようなことは、今までにないことでありました。
「申しにくいことだけれども……」
兵馬は二度まで苦しそうに前置をして、
「急にさしせまった入用《いりよう》が起った故、金子《きんす》を少々用立ててもらいたいが」
兵馬から苦しそうにこう言われて、お松はかえって安心した様子であります。安心したのみならず、兵馬からこんな無心を言いかけられたことを、かえって嬉しく思うように見えました。
「わたしの持っているだけで、御用に立ちますならば……」
「それが大金というほどではないけれど、差当り少しばかり余分に欲
前へ
次へ
全200ページ中77ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング