で会った、貴様もこの店に馴染《なじみ》があるのか」
「どう致しまして、ここは私共の入るところではございません、こんなところへ入りますと罰《ばち》が当るそうでございます、私共には私共で、身分相当な気の置けないところがあるんでございますけれど、生憎《あいにく》どうも」
「よし、好きなところで遊んで来い、そうして暇を見てここへ話しに来るがよい」
主膳は紙に包んで幾干《いくらか》の金をやりました。金助は崩れるほど嬉しがって、それを幾度かおしいただきました。
「これこれ、こう来なくっちゃあならねえのだ」
という面をして、お礼の文句を繰返しながら、暇乞いをしてひとまず別れました。天水桶のあたりへ再びうろついて来て、いま神尾主膳から貰った紙包を開いて見ると、
「一両! 占めた」
と言って通りがかりの人を驚かせました。金助は一両の金にありついて、有頂天《うちょうてん》になって喜びながら、一両あればかなりのところで遊べると、一時は大成金になった心持で、どこで遊ぼうかここで遊ぼうかと、足を空《そら》にして歩いていたが、急に、
「待て待て、運の向いて来る時にはトントン拍子に向って来るものだ、ここで金の蔓《
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