つる》にありついたのを、そのまま使ってしまえば一両は一両だ、これを手繰《たぐ》ってみると、裏表に利札《りふだ》がついているやつを、今まで気がつかなかったのが我ながらおぞましい」
と言って、万字屋の方を見ながらニヤリと笑いました。このとき金助の心持は、今までの小成金気分の酔いから、すっかり醒《さ》めてしまって、一両の金に随喜するような心から解放されて、もっと遠大な計画に、一歩を進めることに気がついたらしくありました。そうなると、四百の銭見世や二朱の小見世は金助の眼中になくなって、その面付《かおつき》もいくらか緊張してきました。
「今、さるところで神尾の殿様に会って一両いただきました、とこう言えば、あちらでも一両|下《した》ということはあるめえ、初会が一両に裏を返せばまた一両、こいつは、もう少し仕組みを換えると大やま[#「やま」に傍点]が当らねえものでもなかりそうだ。何しろ、神尾の殿様にしたところが世間の明るい体ではなし、神尾の殿様を見つけたら知らせてくれと頼んだお方の、宇津木兵馬て人はどうやら敵持《かたきも》ちのようだから、ここの間で手管《てくだ》をするとうまい仕事ができそうだ。本所の相
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