相槌《あいづち》を打ちます。二人が面白いことというは、どちらもその内容が全く不分明でありました。内容が不分明ながらに、二人共に何か気が飢《う》えて、酒のほかにしかるべき刺戟を求めているもののようであります。
「ここの屋敷内には、女が三人いて男が二人」
 神尾は謎のようなことを言いました。
 それに返答もせずに竜之助は、酒を飲んでいました。
「やれやれ、月が出たそうな」
 なるほど、木の間から月の光が洩れて、庭へ射し込んで来るようであります。団扇《うちわ》を鳴らしながら立って柱へ片手を置き、退屈そうに、
「いい風が来る」
 月の上る方を見ていた神尾主膳が、急に何か思いついたように坐りかけて、
「机氏、机氏、ちと思いついたことがある、耳寄りな話」
と言って机竜之助の耳のあたりへ面《かお》をさしつけて、何事をか囁《ささや》いて笑い、
「さあ、これから直ぐに出かけよう」
「よろしい」
 何を思いついたのか、二人はその場で話がきまったらしく、主膳の方は急にそわそわと焦《せ》き立ちました。

         七

 それから暫くたつと、吉原の引手茶屋の相模屋というのへ二挺の駕籠《かご》が着いて、
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