よこがお》をごらんになった時の眼つきは別段でございます、全く取殺してしまいそうな、怖い眼つきをなさるのはどういうものでございますか、わたしには合点が参りません」
「それは大きに、そうありそうなことじゃ、ずいぶん恨まれていい筋がある。思えばこの屋敷は化物屋敷に違いない、この神尾主膳と、あの藤原の娘のお銀とが落ち合って、睨み合っているのさえ空怖《そらおそ》ろしい悪戯《いたずら》であるのに、業《ごう》の尽きない机竜之助という盲目《めくら》が、あれが難物じゃ。それにお前だとて、生《なま》やさしい女ではあるまい、あのお絹殿……という女。ああいやになる、いやになる、悪因縁の寄り集まりだ、前世の仇《あだ》ならいいが、この世からの餓鬼畜生に落ちた敵同士が、三すくみの体《てい》で、一つ屋敷に睨み合っているというのは、悪魔の悪戯のようなものだ。酒が苦《にが》い」
こう言って神尾主膳の眼が、怪しく輝きました。
神尾主膳の眼が怪しく輝いたのを、お角は変だとは思いました。しかし、この女は主膳に、怖るべき酒乱のあることを知ってはいませんでした。主膳もまた、ここへ来てから、酒乱になるほどには酒を飲んでいませんで
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