》の足許が危なくなる、そこはあらかじめ仕組んでおかないと」
「そんなことはできません、わたしはそれほどに計略をしてまでお金を借りたいとは思いません、よし借りられるものにしましても、もう二度と甲州の山の中なんぞへ、入ってみようという気にはなりませんから」
「いや、甲州の山が宝の山なのじゃ、全く以てあの女の実家というものの富は、測り知ることができないほどじゃ、惜しいものよ、あれをあのまま寝かしておくのは」
「心がらでございますね、いくらおすすめ申しても、お家へお帰りなさるお心持になれないのでございますから」
「家へは帰られないわけもあるが、ああ逆上《のぼせ》ても恐れ入る、悪女の深情けとはよく言ったものじゃ」
「わたしは、あれこそ何かの因縁《いんねん》だと思いますね、ただ惚《ほ》れたとか、腫《は》れたとかいうだけのことではありませんね」
「因縁かも知れん。このごろ、拙者もあの女の面《かお》を見ると、なんだかゾクゾクと怖いような心持になるわい」
「あのお嬢様は、たしかに御前を恨んでおいでになります、御前とお面をお合わせになると、きっと横を向いておしまいになりますけれど、御前のお後ろ姿や、横面《
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