しさえしますれば、殿様にも御不自由をおさせ申さないようにして上げますし、そのほか、困っているお方には相当に貢《みつ》いでお上げ申すのですけれど」
「してその資本の工面がつけば、何をしてみようというのじゃ」
「それは、やはり太夫元《たゆうもと》をやってみとうございます、今でも両国のあの株を買い戻して、看板を換えて花々しくやってみる分には、そんなに骨の折れたことではございません、軽業を土台にして、目新しいところを二三枚買い込んで、一やま当てるには今が時機なんでございます。その道にかけては、わたしも昔取った杵柄《きねづか》で、今の人たちがやるのを見ていると、間緩《まだる》くて腹が立ってたまりません。この間も両国へ行って見ましたら、やっぱり昔のままの軽業や力持でお茶を濁しているものでございますから、今時、あんまり知恵のない人たちだと、ひとり歯ぎしりをして帰りました。わたしがやっていた時分には、軽業や力持はほんの前芸にしておいて、真打《しんう》ちには、人の思いもつかないものを買い込んで、仲間をあっと言わせ、お客を煙《けむ》に捲いて人気を独り占めにしたものでございます。印度から黒ん坊の槍使いを買い
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